日本におけるスペイン料理とスペインワインの未来は? (森田真希子)

財務省関税局が毎月発表する最新の酒類輸入通関によれば、スペインからのワイン輸入は9月単月で3割減、1~9月累計では前年比14%減だった。首位フランスの前年割れも続く中、いったいどこが伸びているかといえば、チリとアルゼンチンだ。チリは累計で2割増、アルゼンチンは(数量はまだ少ないとはいえ)4割増と上位国最大の伸びとなった。

これまで日本では、フランスワインやイタリアワインがその国の料理とともに市場を広げてきた。スペインワインもバルブームと円高を追い風に、2009年には前年比4割増、2012年には56%増の大幅増を記録している。今年、その勢いが減速したのは、ユーロ高を受けて流通向け超低価格ワインが淘汰されたからだろう。一方で、量販店に強いチリやアルゼンチンのワインは着実に数を伸ばしている。家飲みの場合、料理にあわせてワインを選ぶ人はそう多くない。カベルネやシャルドネといった品種はすでになじみ深く、新世界ワインはブランド名も覚えやすい。手頃な価格でわかりやすいワインが一番なのだろう。

結局、消費者が知りたいのは、造り手の歴史やこだわり、土壌やテロワールではない。こんな時にこんな料理と合わせたらおいしく飲めるという、実践的で具体的なアドバイスであり、ワインの味わいをより印象的にするわかりやすいストーリーだ。たとえば、州ごとに個性的なワインや郷土料理を持つイタリアンのソムリエなら、郷土色で料理とワインを合わせて提案するだろう。フィレンツェ、ミラノ、ヴェネチア、ナポリと、誰が聞いてもイメージしやすい地名が多いのも強みだ。スペインの場合はどうだろう。確かにバルセロナやグラナダを知らない人はいないだろうが、どちらかというとサグラダファミリアやアルハンブラといった観光地の方が有名かもしれない。バル業態はすっかり都市生活者の日常となったが、アヒージョやプランチャなど地方色が出にくいものも多い。タパスのような小皿料理はグラスワインと一緒につまむには気楽だが、そこに驚きはあるだろうか。専門店だからこそ、プロならではの提案がないと、家飲みと同じく、わかりやすく手頃なワインで十分ということになってしまう。

たとえば、魚料理には白、肉料理には赤、というのはもう常識のようになっているが、実は魚料理に合う赤ワインもあるし、肉料理に合わせたい白ワインもある。今まで自分では思いもつかなかったマリアージュがばっちり決まった時の驚きは、きっといつまでも記憶に残るだろう。また、専門店なら必ず考慮してほしいのが適切な温度とグラスの選択だ。実際に二種類のグラスで飲み比べてもらってもいい。同じワインでもここまで味が変わるのかと驚かれるはずだ。スペイン業態の多くは、客と店の距離感の近さも魅力のひとつ。カジュアルな業態だからこそ、おせっかいなくらいにおいしい時間を演出してほしい。