鹿肉は宝石の赤。中でも内モモは、ガーネットのような深紅が美しいお肉です。
この部位は激レアステーキやタタキなど、生に近い状態が個人的には最も好き。
それは艶やかな深紅がそのまま活きるからでもあり、火の通し方によっては固く締まりがちなこの部位を、簡単確実においしく食べられる調理法だからでもあります。
写真上と中は和風のタタキです。
タレはグレープシードオイルでニンニクのみじん切りを炒め、日本酒を注いで煮詰めてから、おしょうゆとヴィンコットを加えたもの。
添えたのは菜の花のガーリックソテーとわさび菜。
写真下は洋風で、タタキよりも火をやや深めに通したステーキ。
ソースはバターでニンニクとエシャロットを炒め、赤ワインを注いで煮詰めてから、フォンドヴォーを加えて更に煮詰め、別鍋で煮詰めておいたバルサミコ酢を加えて塩コショウで調味。
付け合わせはワイルドライスのピラフです。
お肉はいずれも、片面に少しついていた薄い膜を削ぎ取ってから、塩コショウなどで下味を付け、塊のままフライパンですべての面を焼いただけ。その後にホイルに包んでホールドします。
タタキは殺菌の意味で2ミリ程度焼き固めただけで、ホールド時間も5分くらいです。
ステーキのほうは、焼き時間もホールドももう少し長めにし、中心部まであたたまるようにしました。ステーキの場合は強火は最初のみとし、あまり高くない温度で火を通すほうが、肉が固く締まりにくいような気がします。
味付けがそれぞれ違うわけですが、焼き加減だけでもお肉の風味と食感はかなり異なります。
きめ細かい赤身のなめらかさと濃い鉄分が醸す甘みが前面に出るタタキと、鹿独特の草いきれを含んだような香りと走るための筋肉ならではのコシの強さが感じられるステーキ。
クセのないお肉なのですが、私は鹿を食べるならその個性を満喫したいと思います。タタキも激レアステーキも、その点で満足のいく調理法。
視覚も触覚も嗅覚も味覚も、総動員して食べたいと思える食事は幸せです。
◎タタキの作り方
【お肉の下準備】
・解凍したお肉の薄膜を剥ぎ取り、塩(燻製塩を使いましたが普通のお塩でもOK)と少量のコショウを振り、常温に戻しておく。
【タレを作る】
・グレープシードオイル(強い風味のないオイルならなんでもよい。コーン油やサラダ油でも)を小鍋に引き、ごく細かいみじん切りにしたニンニクを炒める。
・日本酒を注いで煮詰める。しょうゆを注いで一煮立ちさせ、ヴィンコットで甘みを付ける。ヴィンコットの代わりに蜂蜜や夏みかんジャムなど、好みの甘味料を使ってもおいしいと思います。
・常温に冷ましておく。
【お肉を焼く】
・よく熱したフライパンにグレープシードオイルを引く。各面をジュッジュッとフライパンに押しつける感じで焼き固める。
・アルミホイルに包んで5分ほど置く。夏ならばホイルに包む代わりに氷水に取り、キリッと冷やしてもおいしいと思います。
【サーブ】
・お肉を薄くスライスし、ワサビ菜など薬味を兼ねる強さのある葉物の上に並べる。
・タレを泡立て器でよく混ぜ、お肉の上にかける。