ワインの産地は、言い換えればその原料となる葡萄の産地と言うこともできます。
気候条件や地形、土壌などにより、葡萄の栽培に適している産地があります。
世界地図上で見ると、北と南にワインベルトと呼ばれる生育適地ベルトが広がっています。
北のワインベルトには、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガルなどヨーロッパの産地をはじめ、アメリカ、カナダ、北アフリカ、中東、中国、そして日本などが含まれます。
南のワインベルトには、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどがあります。
ヨーロッパ以外の産地の場合、ニューワールドと呼ばれることもあります。
◆フランス
世界各国にワイン文化が広く浸透していますが、中でも世界的に有名でワインのお手本になっているとも言えるのが、ワイン王国フランスです。
フランスのワインづくりの歴史は大変古く、紀元前にさかのぼりますが、とくにワイン文化が盛んになったのは6世紀頃からです。
その後は宮廷から一般家庭まで、ワインは欠くことのできない存在となり、現在に至っています。
フランスワインの魅力は、何と言ってもそのバラエティの豊かさにあります。
フランスでは、多種多様なワインがつくられており、多くの有名産地が存在します。
中でも、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュは3大ワイン産地であり、その地方ならではの地形、土壌、気候、葡萄の品種、醸造方法があるため、つくられるワインにも地方色が色濃く現れています。
フランスワインの双璧をなしているのが、ボルドーとブルゴーニュですが、その他にもコート・デュ・ローヌ、南フランス、ロワール、アルザスなども世界的な有名産地として知られています。
フランスでは、ワインが政治的に利用されてきたという歴史的事実があり、ワインの生産者一個人だけの努力ではなく、国をあげてワインづくりにとって良い環境を整えてきたということが、ワイン界で絶対的な地位に君臨し続けている理由でしょう。
フランスは間違いなくワインの王国と言えますが、実は、生産量に関してはフランスではなくてイタリアが世界一になります。
近年、生産量が減りつつあるというものの、世界中のワインの20%以上をイタリアのワインが占めているという事実は驚きです。
古代ローマ帝国時代から16世紀頃まで、ワイン界の先端を引っ張ってきた伝統と歴史を持つだけのことはあります。
◆イタリア
暖かい地中海性気候に恵まれたイタリアは、国土全体が葡萄の栽培に最適な地域だと言えます。
イタリアは南北に長い国土を持っているので、地域によって気候がかなり異なり、ワイン用の葡萄の品種だけで約200種類にも及びます。
葡萄の品種が多いことから、つくられるワインの種類やタイプも他の国に類をみないほど多種多様です。
フランスのワインが高品質志向であるのに対し、イタリアのワインはその85%以上が日常消費用です。
イタリアでもフランスと同じく、ワインに4段階の格付けがされていますが、法が規定する格付けと、品質または価格が必ずしも一致していません。
フランスは、国の文化としてワインの方向性を統制していますが、イタリアの場合は、法の規定にとらわれず、自由な発想で個性的なワインづくりを行っている傾向があります。
これが、イタリアのワインが分かりにくいと言われる所以です。
イタリアが葡萄の栽培に最適な地域である一方、北限の地で葡萄の栽培を行うには
ぎりぎりの環境にあるのがドイツです。
ドイツのように北方で栽培される葡萄は、一般に糖度が低いためつくられるワインも酸味の強いものになりがちですが、ドイツのワインは甘めの白ワインが多く、そのあたりに勤勉な国民性がよく現れています。
◆スペイン
葡萄の栽培面積が世界一で、生産量でも世界第3位を誇るのがスペインです。
スペインのワインとして有名なものは、ワインにブランデーなどを添加してアルコール度を高めた、フォーティファイド・ワインのシェリーです。
シェリーで有名なスペインですが、実はシェリーが占めるのは国内生産量の7%ほどにすぎず、あとはスティル・ワインやカヴァなどのスパークリング・ワインがほとんどです。
◆ポルトガル
スペインのシェリーと並んで、フォーティファイド・ワインとして世界的に有名なのは、ポルトガルのポートワインとマデイラです。
ポルトガルは歴史的に日本と縁の深い国であり、日本人が最初に味わったヨーロッパのワインはポルトガルのワインではないかと言われています。
北のワインベルトに含まれる、ヨーロッパの主なワインの産地をみてきましたが、ヨーロッパ以外のニューワールドと呼ばれる地域のワインも、それぞれ個性があって奥が深いです。
◆アメリカ合衆国
まず、アメリカは、ヨーロッパ以外の産地の中でも、日本人によく知られた生産国ではないでしょうか。
アメリカのワインの場合、アメリカというよりもカリフォルニアに限定したほうが分かりやすいかもしれません。
太平洋に面したカリフォルニアの気候や風土は、夏は涼しさ、冬は暖かさをもたらしてくれるため、葡萄栽培に非常に適しています。
もちろん、ワシントン州やオレゴン州、ニューヨーク州などのアメリカ東部地域でもワインづくりは行われていますが、アメリカ合衆国全土のワイン生産量の約90%はカリフォルニア州のワインが占めています。
カリフォルニアにおけるワインづくりは、アメリカの開拓時代から始まっています。
これまでアメリカでは、ヨーロッパから逆輸入されたフィロキセラという害虫によって葡萄畑が危機的状況に陥ったり、禁酒法が制定されたためにワイン産業が崩壊に追いやられるといった、大変な災難を経験してきました。
しかし、カリフォルニア大学に葡萄栽培とワイン醸造の専門的な部門を設立して、ワインづくりに関する総合的な研究を行うなど、開拓民族らしい不屈の精神でワイン産業を見事に立て直しました。
◆カナダ
アメリカの隣のカナダでは、アメリカ国境に近いオンタリオ州が中心となってワインづくりが行われています。
カナダのワインとしてとくに有名なのは、アイスワインと呼ばれる、凍った葡萄からつくられる甘口のワインです。
20世紀半ばからは、ヨーロッパ品種の葡萄が導入されるようになり、良質なワインがつくられるようになってきています。
◆北アフリカ(モロッコ・チュニジア・ナイジェリア)
北アフリカはフランスの植民地が多かったため、かつては大量にワインを生産していましたが、独立後は生産量が減ってきています。
北アフリカ最良の赤ワイン生産地と言われているのが、国営の醸造所を持つモロッコです。
チュニジアはロゼワインを中心に、ナイジェリアは赤ワインを生産しています。
◆イスラエル
中東のイスラエルでは、紀元前数千年も前からワインづくりが行われてきたと考えられています。近年ではヨーロッパ品種の葡萄が導入され、著しく品質が向上しています。
◆中国
中国では、20世紀の初めから山東半島でワインづくりが始まりました。
その後、生産地域が広がり、中国原産の龍眼という品種の葡萄を使って主に白ワインがつくられています。 最近では、ヨーロッパ品種の葡萄を使って、辛口のワインの生産も行われています。
次に南のワインベルトに移ります。
◆チリ
近年、ワイン業界の関係者やワイン愛好家の間で注目されているワインの産地の1つに、チリがあります。
チリワインは、フルーティさ、ジューシーで凝縮された味わい、飲みやすさ、価格に対して品質が極めて優れているというコストパフォーマンスの高さなどから、大変人気が高いです。
チリは、気候や風土などの葡萄栽培に適する条件をすべて備えており、葡萄栽培にとって恵まれた環境にあります。
日照時間が長く、昼夜の温度差が大きいこと、雨季と乾季の違いがはっきりしていることなどから、しっかりした味わいの良質な葡萄が育ちます。
また、フィロキセラの被害を唯一免れた土地でもあり、こうしたことからワイン業界の関係者らの注目を集めるようになりました。
近年では、ヨーロッパのワイン業界関係者などが次々にチリに進出するようになり、最高級のワインがつくられ始めています。
◆アルゼンチン
チリの隣のアルゼンチンは、ワインの生産量が世界第5位であり、チリの躍動と共に注目されている産地です。
アルゼンチンでは、これまで国内消費向けのワインが多かったのですが、チリの国境に近いメンドーサ地区では、輸出向けの上質なワインもつくられるようになりました。 アルゼンチンは、低湿少雨の気候で乾燥地域ですが、その分病害が少なく、アンデス山脈からの雪解け水を利用した灌漑により葡萄栽培ができるようになり、大量生産国に発展しました。
◆オーストラリア
ワインづくりの歴史はまだ浅いですが、これからが伸び盛りのワイン新興国として健闘しているのがオーストラリアです。
オーストラリアは温暖な気候に恵まれており、年による気候の変化が少ないため、毎年安定して葡萄の栽培を行うことができます。
オーストラリアでワインづくりが始まったのは、1788年にケープタウンとリオデジャネイロから葡萄の木が持ち込まれてからなので、その歴史はまだ200年ほどしかありません。
その後、ヨーロッパ品種の葡萄が次々にオーストラリアに持ち込まれ、19世紀にはイギリスに輸出できるほどの成長を遂げました。
20世紀の中頃以降になると、技術革新が行われ、ワインのブームが到来したこともあり、良質なワインの生産が急速に増えました。 オーストラリアのワインづくりの特徴として、産地間の葡萄やワインのブレンドが広く行われていることが挙げられます。 ブレンドを行うことで、ワインの品質を安定させることができます。
◆ニュージーランド
オーストラリアの隣のニュージーランドでは、特に白ワインの品質が世界的に評価されています。
ニュージーランドは、南のワインベルトの中では比較的冷涼な気候で、昼夜の気温差が大きいため、葡萄は酸味を失うことなく甘みとのバランスがとれたワインが出来上がります。
北島はシャルドネ種、南島はソーヴィニヨン・ブラン種による白ワインの産地として有名です。
◆南アフリカ共和国
南アフリカ共和国は、イギリスの植民地時代以来ワインづくりが行われるようになり、現在では、ワインの生産量で世界十指に入るほどの産地になっています。 カベルネ・ソーヴィニヨン種や南アフリカ独自の交配種であるピノタージュ種などから赤ワイン、スティーン種などから白ワインがつくられており、ケープタウンに近い沿岸部が生産の中心になっています。
◆日本
日本も、ワインの歴史がまだ浅い国ですが、醸造技術に関しては世界のトップレベルに入ると評価されています。 国内産の葡萄は風味がいまいち物足りないということから、最近ではヨーロッパ品種の葡萄が導入されるところも増えてきています。
世界地図にまたがるワインベルトに沿って、ワインの産地をかいつまんで見てきましたが、世界中にはまだまだたくさんのワインの産地が存在しています。
産地ごとのワインの特徴や奥深さを知って、とっておきの1本を探してみませんか。
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